家庭用殺虫剤の略歴

金鳥の創業者
上山英一郎の肖像

わが国の家庭用殺虫剤については、正確にいつごろから使われたりしたかは定かではありません。昔は蚊を防ぐために植物を燃やしたり、カヤの木をいぶしたりしていました。
明治にはいりますと、除虫菊粉が輸入され、国内でも除虫菊が栽培されるようになり、蚊取線香が国産化されるようになりました。
戦後、DDTなど有機塩素剤が発見され、殺虫剤として利用されましたが、安全性、抵抗性の問題から、その後使用を禁止されました。
又、有機りん剤も発見されましたが、抵抗性の問題が残っています。除虫菊から端を発する蚊取線香、油剤等の殺虫剤は安全性も高く、順調に発達し、除虫菊の花から取り出された薬剤「ピレトリン」の類縁化合物が化学的に合成され、そのうちの一つである「アレスリン」が、1955年頃に開発実用化されました。

これら「ピレトリン」の類縁化合物を総称して合成ピレスロイドと呼び、その後、数々の新しい合成ピレスロイドが発表、実用化され、現在の家庭用殺虫剤のほとんどがこの合成ピレスロイド(ピレスロイド系)を使用しています。
〔蚊取線香(金鳥の渦巻)、キンチョールとも、有効成分はこのピレスロイド系の薬剤を使用しています。〕

弊社の創始者 上山英一郎氏は、明治19年、除虫菊の種子をアメリカより移植、以来その栽培奨励と同時にこの可憐な花のかくれた力をひきだし、いつでも、どこでも除虫できる方法の研究に取り組み、粉骨砕身の末、明治23年に世界初の「棒状蚊取線香」が、明治28年、上山英一郎夫人のアイデアによる「渦巻蚊取線香」が生まれました。社祖は、これを「金鳥」と名づけて世に送りました。
また、弊社製品「金鳥の渦巻」の製造工程は、有効成分ピレスロイド系殺虫剤「アレスリン」を粕粉、木粉などの植物性粉末に混合し、更に粘結剤としてタブ粉、澱粉などを加え、混和機で練り、押出機にかけて板状にしたものを渦巻型に打抜き、乾燥して作ります。

『除虫菊について』

戦後(昭和28年ごろ)の
除虫菊畑にて

一般に除虫菊とよばれている植物は2種類で、1つはシロバナムシヨケギク、もう1つはアカバナムシヨケギクです。アカバナムシヨケギクは赤い花が咲き、ペルシア原産の植物で観賞用のもので、「蚊取線香」などの殺虫剤原料として使用されたのは、シロバナムシヨケギクの方です。
殺虫成分(ピレトリン頬)は、除虫菊乾花中に約1.3%含まれていて、葉や茎にはほとんど含まれていません。花に含まれている殺虫成分の90%近くが子房に含まれていて、花の開き加減によってその量は違い、つぼみがふくらむにつれて多くなり満開時に最大に達します。

シロバナムシヨケギク(除虫菊)の原産地は、セルビア共和国(旧ユーゴスラビア)で、日本へ除虫菊をはじめて紹介したのは、当社の創立者上山英一郎氏でした。
除虫菊の栽培は和歌山県で始まり、瀬戸内海地方へ広がり、1935年(昭和10年)には1万3,000トンも生産されました。
(ほとんど種まきは秋に行われ、翌々年の5月から6月にかけて開花し収穫します。)
しかしながら、戦前戦後の食糧増産のため、日本の除虫菊の栽培面積は、はなはだしく減少していき、又、一方では戦後まもなくの化学合成品の開発とあいまって、現在ではほとんど栽培されておりません。シロバナムシヨケギク(除虫菊)中に含まれる天然の殺虫成分(ピレトリン)に似た合成されたピレトリン類似化合物(ピレスロイド)が開発され、その後、数々の合成ピレスロイドが発表、実用化されて、今や日本では「蚊取線香」をはじめ、家庭用殺虫剤のほとんどがこの合成ピレスロイドが使用されている状況です。

除虫菊ってなに?
なぜ渦巻き型をしているのでしょうか?

明治23年、仏壇線香にヒントを得て棒状に固めたものが創案されましたが、1本では40分程度しかもたず、長時間の使用には耐えぬものでした。また、細いため効力も弱く、輸送の途中で折れやすいという欠点もありました。そこで、研究工夫の末、もっと長時間使えて効力を高める方法として、明治28年「金鳥」初代社長上山英一郎の夫人の発案で現在の渦巻型になったのです。

渦巻型の打抜き道具(試作)

なぜ緑色をしているのでしょうか?
蚊取線香は、粕粉(除虫菊の有効成分を取り去った後の粉)、木粉などの植物性粉末や粘結剤としてタブ粉、澱粉を混合し、有効成分のピレスロイド系殺虫剤「アレスリン」を加えたものから構成されております。それらを混合すると茶色系統の色になり、これを染料を使って緑色にしています。なぜ緑色にするかというと、茶色系統の粉に対してムラなくきれいに染まる色の1つであることと、蚊取線香ははとんどが暑い夏に使用されますので、 涼しい色にということ。また蚊取線香ができるまでは、虫よけに「蚊遣り」といってヨモギの葉などの草の葉を燃やしていました。その草の葉の色をイメージしたのも緑色にした理由の一つです。
蚊取線香は、どうして遅く(ゆっくり)燃えるのか?
線香が燃えるのには、空気(酸素)が必要なのですが、線香の断面はあまりスキ間があいていませんから、線香の中に空気(酸素)があまり入ってなく、そのためにゆっくり燃えるのです。(酸素との接触が小さい)ちなみに「金鳥の渦巻」1巻は、長さ75cm、重さ13gです。もし、「金鳥の渦巻」と重さ以外の条件(かたち、材料、太さ、長さなど)が同じで、重さが軽い(密度が小さい)線香があれば、線香の内、外も空気にふれやすくなるわけで早く燃えるはずです。
蚊取線香の煙の成分は?
煙は主に炭素です。しかし二酸化炭素、酸素、水、ヤニ等が含まれています。
蚊取線香の燃える時の化学式は?
蚊取線香が燃える時の化学式とひと言でいっても、これは燃える時の条件等によって微妙に変わり、いちがいには言えませんが、「燃える」ということは、「酸化反応」ですので、もし完全燃焼した場合は、C,H,Oによる構成+O2→CO2+H2Oとなるはずです。
しかし蚊取線香の燃焼は煙が出ます。これは不完全燃焼しているからなのです。ですからこの場合は、C,H,Oによる構成+O2→O2+C+CO2+CO+H2O+C,H,Oとなるのです。
なぜ、「金鳥の渦巻」は左巻なのでしょうか?
昔、かとり線香は手で巻いて作っていたので、当時は右巻でした。
昭和32年(1957年)頃から機械で打ち抜くようになり、他社品は右巻が多かったので、区別するために左巻にしました。
なぜ、蚊取線香の灰が切れてしまうのか?
蚊取線香を線香皿(金鳥の渦巻缶入の線香皿)を使って燃やした場合、蚊取線香が燃えたあとの灰は、蚊取線香本体にひっついていこうとする力と、線香皿に敷いてある白いマットに蚊取線香が接し、灰をそのままの位置にとどめようとする力(摩擦力)の2つの力が働きます。初めのうちは、ひっつく力が強いのですが、ある程度の長さになると摩擦力の方が強くなり、そこで灰が切れてしまうのです。これが繰り返し起こるので、ある程度の長さで切れている灰が連続して残るのです。線香立の場合も同じ考え方で、灰がひっついていこうとする力と灰の重さで下に落ちようとする力が働き、下に落ちる力が強くなった時、灰が切れて落ちていきます。それが繰り返し起こります。
なぜ蚊取線香で蚊が死ぬのでしょうか?
除虫菊(シロバナムシヨケギク)の花に含まれているピレトリンという成分は、殺虫効果を持っています。そのピレトリンを化学的に合成したものがピレスロイドと呼ばれており、蚊取線香の中にはこのピレスロイドが含まれています。蚊取線香は、ピレスロイドを粕粉や木粉などの植物成分に混合し、燃やすことによって有効成分のピレスロイドを極細微粒子として空気中に浮遊させ、長時間殺虫効果を維持できるようにしたものです。燃焼部分の温度は約700~800℃で、ピレスロイドは先端から6~8mmの部分(約250℃)から揮散し、かなりの時間空中に浮かんでいます。従って、どのようなせまいすき間にも届き、タンスのうしろや部屋の隅に潜んでいる蚊を殺すことができるのです。殺虫剤が虫の体内に入る方法として、食物とともに口から、体表(皮フ)から、呼吸をする気門からの三つのルートがあり、虫の体内に入った殺虫剤は呼吸を止めるか、神経を攻撃して虫を殺します。
ピレスロイド系の殺虫剤は、その中でも虫の体表(皮フ)から体内に入り、神経を攻撃して虫を興奮させ、やがてケイレンを起こしマヒ状態となって死んでいくのです。しかし、虫にはよく効くピレスロイドも、人間や温血動物に対しては体の中で速やかに分解し、無毒化され、体外に排出されてしまうので安全です。これは温血動物が持っている酵素の働きによるもので、昆虫ではこの働きが弱いため殺虫効果が発揮されるのです。このような毒性を選択毒性といいます。この選択性を持っているのはピレスロイドだけで、有機リン系や有機塩素系の殺虫剤は選択性がないので、温血動物の体内で分解されにくく、毒性がピレスロイドよりも高くなります。このような働きをするピレスロイドを含んだ蚊取線香は、燃焼時間中絶えず一定の有効成分を空中に連続的に放出して、殺虫効果を保持しているのです。

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